特集/コラム

【人物登場】2010-10-20

”古窯”と組み、テーブルウエアに新しい感性を 黒田 潔さん(現代アーティスト、アートディレクター)

 1300年の伝統を誇る瀬戸焼を、現代に伝える陶磁器ブランド「NAGAE」(港区、東京ミッドタウンガレリア3階)のアートディレクターに迎えられ、今秋からテーブルウエアに、新しい感性を吹き込んでいる。動物、植物といった自然にあるモチーフを、繊細な“線画”で描くアートを、宝石のように輝く白磁にのせて、食卓に彩りを届ける。

”古窯”と組み、テーブルウエアに新しい感性を 黒田 潔さん(現代アーティスト、アートディレクター)

 10年に及ぶイラスト歴だが、これまでは「紙の上に描く平面の仕事」が主だった。だが、その一方で「食器や陶器のデザインに興味」があって今回、長年の夢が叶った。「イラストを描いていたとき、グラフィックで個性を発揮する気持ちが強かった」という。だが、それは「器のデザインだけで終了するのではなく、人が使うことによって、生活の中に溶け込むことで成立する」。
 もともと、鳥、昆虫、魚といった動物類や草花・植物といった”自然のモチーフ“を得意としてきた。色彩は、どちらかといえばモノクロを得意としたが、今回、イラストをテーブルウエアに乗せるに当たっては、色にこだわった。たとえば、カップは白地にゴールドと黒の組み合わせが目立つ。
 とはいえ、「器のフォルムを活かしたかった」として、植物類を描いたイラストとの調和も大事にしながら、「少し引いた」ことによって、上品な仕上がりとなっている。
 こうした新感覚の器の誕生は、「瑞々しいデザインに、巧みの技が融合した新しい感性」と評される。デザインを器に乗せるときに威力を発揮する“フィルム”は、米国系の住友スリーエム(世田谷区)が素材提供している。

 この「黒田潔×NAGAE アートなテーブルウエア」展は、11月7日(日)まで、港区赤坂9丁目の東京ミッドタウンの「NAGE」本店で開催。新作展と同時に、作家のアートワークも展示・販売しており、ここでは今年1月に発売した初の作品集「森へ」(ピエ・ブックス刊、本体2,800円)が目立つ。
 アラスカまで出かけてリサーチを重ね、もたいまさこ、小林聡美さんら女優たちがモデルとして登場、コメントも寄せ、羽田誠カメラマンが腕をふるった。ウリは「植物にこだわって、いかに美しく、どの作品にも入れていくか」――その努力が、結実している。
 デザイン哲学は「作品をつくることで自己完結ではなく、誰かにキチンと伝え、イラストを通して共感を」。
 将来の夢は「デザインを突き詰めること」に加えて、「作品発表だけでなく、服とか、やったことのないデザインを」。さらには、「アニメとか、動きのある映像」へと広がっている。

 くろだ・きよし 1975年東京・世田谷生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科グラフィックデザイン専攻修士課程修了。新宿サザンビートプロジェクトのウォールグラフィックで、2005年グッドデザイン賞を受賞。東京都現代美術館の新人作家のグループ展「MOTアニュアル10」に参加するなど、国内外の展覧会に多数参加。
 2009年に初の作品集の出版を手掛けるに当たって、イヌイット語で“鳥”を意味する自分の会社「KABWA」(カブワ)を設立。これを基盤に、広告や雑誌のアートワークを各種ディレクションを手掛けるなど、活動の幅を広げている。
 「絵を描くこと」は、今や仕事になっているが、趣味はほかに、映画、電子音楽など。それは、NAGAEが“日本六大古窯”のひとつという伝統を誇る一方、“Jewels of Ceramics wear”をフィロソフィーに、「暮らしの中で輝きを放つ一粒の宝石のようなテーブルウエアのあり方」を追求する姿勢と、どこか重なり合う。

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