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【エリア特集】2006-10-06

パリの週末:テアトル

余暇の楽しみの一つにテアトルがある。こちらの劇場は小さいこともあり、有名な俳優を間近で見ることが出来、迫力も十分に伝わってきて見ごたえがある。

パリの週末:テアトル

 シャンゼリゼのコンコルド広場寄り、メトロでいうとシャンゼリゼ・クレメンソーの駅のそば、しかも大統領官邸エリゼ宮の庭から道を挟んですぐのところにテアトル・マリニー(Théâtre Marigny)がある。今ここでは、フランスを代表する女優イザベル・アジャーニ主演の「メアリー・スチュアート」の公演が行われており話題を呼んでいる。以前にもこの劇場ではアラン・ドロンが、自分の付き合った若い女性が実は自分の娘だったという、どんでん返しの結末の2人芝居を演じていた。

 アジャーニの扮するスコットランド女王メアリー・スチュアートは、16世紀のイギリスで王位継承権を巡って血生臭い争いの中、姻戚関係にあるエリザベス一世に屈し断頭台で命を落とす。その死の直前の2時間を熱演し好評を博している。歴史上も最後の2時間は、秘書に遺言を伝えるなど女王として威厳のある態度で臨んだ様子が伝えられている。スチュアート王朝存続のために、他の権力に屈せず一身に戦った。自分の下臣や召使い、断頭人、死刑執行人などとのやり取りを通じて、激しい感情に揺さぶられながら最後には死を受け入れていく。当時としては晩年の45歳の女性の姿を演じたアジャーニは、白髪と崩れた体形に身を包み、普段の彼女とは別人だった。もともとエキセントリックな役柄の多い彼女だが、髪を振り乱しながら舞台をこなす様子に、この役柄に対する意気込みが伝わってくる。(ちなみに最前列ほぼ中央で見た私の頬には、彼女が叫んだときのつばが飛んできた。)

 メアリー・スチュアートは、幼少期から15年間フランスで暮らしたこともありフランスとも縁が深いが、平行して思い出されるのが、18世紀終盤にやはり数奇な運命をたどり断頭台に立たされたマリー・アントワネットだ。後者はソフィア・コッポラ監督の映画の題材にされ今年のカンヌ映画祭でも話題を呼び、このふたりの歴史上悲劇のヒロインが同じ年に取り上げられたことは興味深い。

 アジャーニの劇は、断頭台で斧が振り上げられたところで幕が下りるのだが、カーテンコールに答えて1分後に再度登場した彼女の顔は、緊迫した空気から一揆に開放され普段の愛らしいアジャーニにもどっていた。さすがプロだと感心させられた。アラン・ドロンもそうだったが、舞台の終わった瞬間に何とも言えない、いい表情を見せる。達成感がみなぎっているせいだろうか。

 ジャン・レノもオペラ座近くの劇場で危機に陥った中年夫婦の役を演じており、夏季バカンス中これといって催しがなかったパリが一気に活気づいてきて、秋も深まり文化にいそしむにふさわしい季節になってきた。

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