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【エリア特集】2007-02-02

ロンドン:ミュージカル「オペラ座の怪人」

パリ北駅からユーロスターに乗ってドーバー海峡のトンネルまで約1時間半、もう1時間するとロンドンの中心ワーテルロー駅に着く。週末を利用しての小旅行にはうってつけの距離だ。

ロンドン:ミュージカル「オペラ座の怪人」

冬のバーゲンの最後を楽しみに行くのだろうか。1月末の金曜日のユーロスターは、小さいスーツケースひとつ持って列車に乗り込む人で一杯だった。天気予報ではロンドンらしく金曜日は時々雨、土曜日は曇り、日曜日はまた雨だった。傘と予約したミュージカルのチケットがバッグに入っているのを確認して旅行に出た。

タクシーでホテルへ向かったが、ワーテルローの橋を渡るころには青空が見えていた。その日の午後は美術館巡りに終始し、英国博物館とワラス・コレクションを急いで回った。途中天気雨の降る中傘をさし、通りのレストランを眺めながら歩いた。パリから来ると、ロンドンの街はかしこまっていない。気楽さに解凍される思いがする。もうひとつ違うのが食事の時間帯。フランスは8時過ぎに始まり10時ごろレストランに入ってくる人も珍しくないが、イギリスは6時頃からと早い。ちょっと遅くなって9時過ぎに店に入るともうキッチンは閉められていて、飲み物だけ受け付けるという。やっと3件目でまだキッチンが開いている店に当たり、夕食をとることが出来た。

そして土曜日。午前中はトラファルガー・スクエアにあるナショナル・ギャラリーを訪れた。ちょうど印象派展をやっていたが、パリのオルセー、オランジェリー、マルモッタンなどの美術館などと比べてしまうと、印象派はやっぱりパリで見るのが一番ということになってしまうようだ。その後日本語が異様に流暢なオーナーのいる劇場前のイタリアンで昼食を済ませ、ミュージカルへ急ぐ。

ロンドンはニューヨークと並びミュージカルのメッカだ。パリから1ヵ月半前に電話予約して手に入れた10列目の「オペラ座の怪人」のチケットを片手に街に繰り出す。夜のチケットは手に入らず昼2時半の部の公演だ。ちなみに、週末の夜は4ヶ月先でもあまりいい席が残っていないようだ。「オペラ座の怪人」は、1986年11月にアンドリュー・ロイド・ウェーバーの音楽と共にこのロンドンのマジェスティーズ・シアターで幕開けし、すでに20年の月日が流れている。本家本元だ。ストーリーはパリのオペラ座を舞台に、そこの地下にこっそりと住んでいる音楽に才能がある、しかし病気で醜く変形した顔を持つ怪人のプリマドンナへの悲恋の物語だ。ストーリーの基になっているのは、弁護士の資格を持つ42歳のフランス人ガストン・ルルー(Gaston Leroux)が1910年に出版した同タイトルの本だ。新聞社の優秀なレポーターとして活躍した後この本を書いた。彼の怪人のストーリーは、ミュージカルの他、1925年以来すでに6回も映画化されている。

オペラ座が舞台となるだけあって、バレエやオペラ「フィガロの結婚」、仮装舞踏会などのシーンがありとても華やかだ。ストーリーもわかりやすく、途中でオペラ座の中央に飾ってある大きなシャンデリアが舞台に落ちてきたりしてスリルもある。(このシーンは、ウェーバーがミュージカル「キャッツ」のオープニングの為にオーストラリアを訪れた際、旅行中自分の乗ったヘリコプターが離陸時に落ちるという事故に遭遇し、そのときに閃いたのだそうだ。)彼は最初有名なクラシック音楽を編集してミュージカルに使うつもりだったが、イメージにぴったりするものがなく、結局全て自分で作曲したという。怪人がプリマドンナを地下に連れ去る途中2人が掛け合って歌うシーンは、どちらも最高の調子で歌い感動を誘う。さすがウェーバー、公演が終わってからもこのメロディーが頭の中で繰り返しオルゴールのように聞こえてくる。

そして、地下深くにある大きな池を2人がボートで渡るという場面が登場するが、この池は本当にパリのオペラ座に存在するそうだ。一般には公開されていないが、ウェーバーによると17階ほどのオペラ座の7階分はステージの下にあり、ステージの重さによって池の水量が変化し、バランスをとるためのバラスのような役割をしているのだそうだ。

またパリのオペラ座に行くと、ミュージカルの最初から登場する大きなシャンデリアも、シャガールの描いたドーム型の天井の下に吊り下げられていて、ミュージカルのシーンと比較してみるとおもしろい。ルルーは実際に怪人もオペラ座に存在したと述べており、地下が公開されていない分ますます興味深いストーリーになっている。(N.Suzuki)

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