特集/コラム

【人物登場】2009-11-13

生き物すべてを”五感”で 藤本 和典さん(シェアリングアース協会会長)

 「自然を守れ」「環境破壊反対」などと、声高に叫んだりはしない。それよりも「自然が好きな人を、ひとりでも増やした方が効果的」というのが持論だ。  

生き物すべてを”五感”で 藤本 和典さん(シェアリングアース協会会長)

 生まれ育った東京・板橋区の赤塚、成増あたりの自然林が、結局は切り倒され、守れなかった少年時代の痛切な思いが、「“トラウマ”のようになっている」という。
 だから、「どうして、企業と組んだりするんだ」という批判も意に介さず、「このやり方で」と、精力的に全国を駆け巡る原点は、実はそこにある。

 タイアップする企業といえば、積水ハウスもそのひとつ。コンセプトは「生き物が来る庭づくり」。11年前から一緒に「5本の木」運動を進めている。家を建てるなら、庭に植える5本のうち「3本は鳥のために、2本は蝶々のために」というわけで、ともに植樹を呼びかける。こうして育った樹木が、これまでに560万本。
 ニコンとは、バードウォッチングなどに使う双眼鏡の共同開発でパートナー同士だ。観察用の双眼鏡は軽くて、防水性があって、明るく見えることが絶対的な必要条件。
もちろん値段が安いことは、大前提だ。1万円から、高くてもせいぜい3万円までが一般的で、これまでに共同開発し、普及してきた“成果”ともいえる。
 カメラもまた、よく似たコンセプトで共同開発し、自身の使うカメラはニコンによって、「プロ登録」されている。

 「自然に、自然が好きになる」には、子供のころからの育ち方、育て方に左右されることが多い。そこで、各地の教育委員会や学校ともタイアップして、子どもたちへの働きかけを強めている。
 たとえば、愛知県教育委員会も力を入れている、来年10月に名古屋で開催予定の「COP10」。自らも講師を務める国際的なビッグ会議だけに、子供たちに、その意味を知ってもらおうと、DVDを大量に作成して、今から普及に東奔西走中だ。
 この「COP10」というのは、「生物多様性条約第10回目締約国会議」のこと。2010年は、国連の定めた「国際生物」多様性年」に当たり、2002年の「COP6」(オランダ・ハーグ)で採択された「締約国は現在の生物多様性の損失速度を、2010年までに顕著に減少させる」という「2010年目標」の目標年にもあたる。
 だから、「COP10」は、生物多様性条約にとって、節目となる重要な会議なのだ。主催者は、生物多様性条約事務局と開催国の政府。つまり日本政府も主催者の一翼を担う、重要な役どころである。
 参加者は約7000名(CPO9会議登録者約5000名および国連関係者、各国政府関係者、NGOなど)と想定されている。

 子供たちの、もうひとつの前段階、つまり「育てる」側にあたる大学や短大の幼児教育コースの学生は、とりわけ重視。講座・講演は、枚挙にいとまがない。
 さらに、現場の保育師を対象とした「保育ナチュラリスト講座」は、夏休みなどを活用して、いまや「キャンセル待ち」の盛況という。
 NHKラジオ「夏休みこども科学電話相談室」は20年におよぶ。それをまとめた本「「NHK子ども科学電話相談 いのちはふしぎがいっぱいだ」(NHK出版)をはじめ、「都会の生き物」(小学館) 、「野鳥を呼ぶ庭づくり」(新潮選書)・・・・。
 著書、連載、講座などの数もハンパではない。

 いま、構想中は、代々木公園に東京オリンピックのころにできた「バードサンクチュアリ」の再生。草が茂り、クズの葉で覆われた水辺に、「あの”構造色”も鮮やかなカワセミが、1年中いるような“巣”をつくりたい」。ポイントは、エサが豊富にあること、鳥にとって安全・安心であること。「鳥は見ているんですよ。人の優しい気持ちを」。 
 多方面からの相談もあって、知恵と力を合わせ、日本の、東京の実情にマッチした「本来の意味での聖域(サンクチュアリ)を蘇えらせる」プロジェクトが、間もなく始動しようとしている。
 
 「シェリングアース協会」とは、ユニークな名称だが、人が与えてくれる感動を、人と人との間で分かち合い(sharing=シェアリング)、かけがえのない大切な地球(earth=アース)を、生きものみんなで分かち合い、「人と自然と、よりよい関係を築いていきたい!」という願いが込められている。いま、会員は約1200人。ボランティアで支援するのが、町のカメラ屋さん、サラリーマンなど約20人。彼ら、彼女らを結ぶ会報「S.E.A」は、2ヵ月に1回のペースで発行し続け、年明け早々には100号を迎える。「参加型」の特集号が間もなく登場だ。
 こだわりは「あくまで個人の集まり。NPOにはしない」。何ごとにも縛られず、「自由にノビノビ」と、仲間たちと共に歩んでいく。
 
 1951年、東京生まれ、東京育ちの58歳。駒澤大学経営学部卒業後、財団法人日本野鳥の会(1982〜1991年)を経て、「五感を生かした『自然“感察”』を主な活動として、自然好きをひとりでも多く」と、16年前に「シェアリングアース協会」を設立。明治神宮・代々木公園での「自然“感察”」は学生時代から続く。
 事務所は東村山市に置くが、活動拠点はあくまで明治神宮・代々木公園一帯。隣接する渋谷区代々木八幡の自宅に妻、一人娘と住む。
 とはいえ、板橋区の生家には大正5年生まれで90歳を超えた父、84歳の母が健在。そこで、「行ったり来たり」しながら、全国を駆け巡る“孝行息子”でもある。
 モットーは「準備を早く」。そして、「早く、きれいに、スマートに」と、自らに言い聞かせる。

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