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【人物登場】2010-10-03

自由と理想の雑誌で構造を変えたい 青野 利光さん(雑誌「Spectater」編集長)

 カルチャー&ライフスタイル提案マガジン「Spectater」(スペクテイター)が、創刊10周年を迎え、今秋から11年目に入った。「国内外の事象を“独自の視点”で切り取り、心のままに表現する」ことを編集方針とし、消費主義の潮流におもねることなく、独立した姿勢とレポーティングのスタイルにこだわったオリジナルのコンテンツが、安定的な支持につながっている。

自由と理想の雑誌で構造を変えたい 青野 利光さん(雑誌「Spectater」編集長)

 「スペクテイター」の創刊は、1999年9月。「新しい価値観・新しい生活」を提唱して、“オルタ・ライフ”特集でスタートを切った。サイズはA4判から始まり、B5判、200ページ前後の分厚いスタイルに落ち着いたのが、2004年4月の第12号から。
 といって、固定したわけではなく、毎号、表紙の色、紙の質を変え、今も「常に実験」を続けている。「理想の雑誌を作りたい」「つくる喜びを共有し、自分も楽しみたい」という欲求が根底にあり、「紙もロゴも毎号、違う」という、珍しい商業雑誌の発行形態が、11年目の今日も続いている。

 思い起こせば、第5号から別会社を作って独立したのも、「広告依存型の雑誌ではなく、“ジャーナリズムの雑誌”をやりたい」「自分たちの自由、理想があって、自由な書き手が活躍する場をつくりたい」というのが、そもそもの動機。その種の雑誌が「いくつも残っていない現状」を熟知しつつも、大きく言えば「日本の雑誌の構造を変えたい」。「言うは易く、行うは難し」だが、迎合型の記事は書かない旨を広告主にもよく説明し、納得の上で、出稿してもらっている」という。

 直近の第22号は「Working」がテーマ。経済が悪化し、フリーター・非正規労働者があふれる中で、「仕事って何だろう?」と、根源的に問い直している。自転車屋、漁師、ショップ経営者など、いずれも“創業者”10人ほどの生き方をインタビュー。「夢を見失いがちの若い人に」という思いが通じたのか、書店・ネット販売とも「すごいペース売れ行きで、間もなく完売」の見通し。
次号(第23号)は、12月発行予定だが、2本柱のひとつは「Working第2弾」。もうひとつは、「台湾の先住民の生き方」。台湾の先住民には、「もう日本がなくしてしまった古い文化が根づいている」として、10月には「食べ物はじめ古いものを取材」に、現地へ飛び、しばらく生活を共にする。

 あおの・としみつ 1967年(昭和42年)7月茨城県水戸市生まれ、1991年明治大学政治経済学部卒後、全日空商事に「2年間だけ」と決めて入社。1993年退社し、すでに仲間数人と始めていた音楽エンタメ情報誌「Bar-f-Out!」(バァフアウト!)の発行に専念。1994年株式会社化して常務に就任。並行して1999年、季刊(年2回発行)の雑誌「スペクテイター」を創刊した。4号まで発行して、000年エディトリアル・デパートメントを設立して独立。一方でパンフレット、本などの編集・企画を幅広く手がけて経営を安定化させてきた。
 モットーは「インデペンデント」「独立自尊」。小学校以来の「雑誌オタク」が嵩じて、ついに雑誌の発行が仕事になったが、趣味といえば、ここ5、6年は「テントを担いで山登りし、自然の中で過ごす」。そして、最近は「ボルダリング(岩登り)を始めて、原宿のジムに通っている」という。
 書店営業で支えてくれた妻は「娘がまだ3歳と小さくて、専業主婦だが、そのうちに」と、家族ぐるみの構え。3年ほど前、「母親がいるので」と茨城県土浦市に引っ越し、今では渋谷区千駄ヶ谷の事務所まで、つくばエクスプレスで1時間かけて通っている。

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