特集/コラム

【エリア特集】2006-05-12

週末のマルシェ

フランスは5月に入ると、日本のゴールデンウィークに対抗するかのごとく祝日で忙しい。1日のメーデーに始まり、翌週は第二次世界大戦休戦記念日へと続く。エッフェル塔もブルーのライトで61年前の休戦を祝っていた。フランス人もバカンス気分にそろそろ目覚め始めたようで、行楽に出かける人々で渋滞があちらこちらで見られるようになった。

週末のマルシェ

そんな週末の日曜日の朝、パリ居残り組の人々に混じって有機栽培の野菜で有名なラスパイユ通りのいわゆるマルシェに出かけてみた。6区のルクセンブルグ公園から500mほどの地下鉄12番線レンヌの駅の階段を上ると、通りの中央分離帯に前日夕方から準備されていた100mくらいのテントの並木道のマルシェにいきなり出てしまう。店頭には野菜、魚、肉、チーズ、ワインが並び、狭い道を買い物客が縫って歩いている。両側は、2斜線の車道と上品な石造りのアパルトマンに囲まれたごく普通の通りだ。テントの傍には遠くから自然食品を積んできた空のトラックが列を成して待機しているが、1時頃になると店じまいして去りもとの通りにもどる。

天候がぐずついていたにもかかわらず店によっては人が列をなしており、おいしそうなパンやその場で焼いたクレープやキッシュを売る店もあって、ついつい立ち止まってしまう。時折日本語も耳にする。パリで最初に開かれた由緒ある有機市であり、アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットのカップルが今年2月頃パリに短期滞在していた時に出没したりするなど、この市はやはり人気が高いようだ。

ここの有機市は週に一度日曜の朝のみ開かれ、他の曜日は他地区を巡回している。値段は高めだが、中には普通の市場で買い求める値とそう違わないものもあり、健康のためを考えれば安いのかもしれない。

リンゴも多少不揃いで皮もところどころゴマをふったような部分があったりして、日本のものに比べれば形状は数段劣るが、それが無農薬の勲章でもある。今まで出会ったことのないような野菜を見かけるのも嬉しい。たとえば取り立てのニンニク。茎もついていて青葱とにらを合わせたような風合い。いつもは処分してしまうブロッコリーの外側の葉も、新鮮なので思わず調理してしまう。キャベツと思って食べた人もいるくらいだ。そして掘りたての柔らかいたまねぎ。煮込みに使うのだろうか。生姜もいつもは薬味や魚の煮付けに使うくらいなのだが、取り立てなので手触りが赤ちゃんの肌のように滑らかで、よく洗って皮付きで生姜湯にしてしまう。赤ピーマンもとろけるような舌触りで甘みがあり、4分の1ずつ焼いて大切に味わう。

こちらでは物を買う際列に並ぶことが多いが、理由は店の主人がお客とのやりとりを楽しみながら商売しているからである。会話を大切にするフランス人の姿がそこにもある。高齢者社会の先端を行くフランス、お年寄りの買い物客も多く、このときぞと話し始め、店の人もお年寄りだからと労わって話しにお付き合いするので列が滞ることもしばしばだが、みんな結構鷹揚だ。日本のお店でのマニュアル化された対応と違って、まだここには人の触れ合いに味があり、マルシェでの買い物の楽しみの一つになっている。

通りを挟んだカフェを見ると、買い物を済ませ大きなカートを傍らに話に花を咲かせている人たちの姿がある。パリの生活を感じさせる一光景である。

 (N.Suzuki)

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