特集/コラム

【エリア特集】2006-05-30

ダ・ヴィンチ・コードへのフランス人の関心

カンヌ映画祭が始まった5月17日の当日、フランスはもうひとつのイベントで国中が沸いた。世界的なベスト・セラーのダ・ヴィンチ・コードの映画版が日本より一足早く公開になったからだ。

ダ・ヴィンチ・コードへのフランス人の関心

舞台の中心がフランス、しかもパリであったこと、またストーリーがキリスト教、特に司祭中心のあり方の根幹を揺るがすような問題に触れていることから、カトリックが中心のこの国でアメリカ人の書いた推理小説がメディアで話題を呼んだのは当然だろう。宗教的な内容の真偽については一般市民の方は、敬虔なカトリック信者は人口の5%ともいわれている為か、もともと小説だしイマジネーションの部分もあるのだからと受け止め方は以外に穏やかなようだ。

それにしても地下鉄1番線のコンコルド広場の駅のホームは、両側の壁の下から上までダ・ヴィンチ・コードの赤と黒を基調にした広告に覆われ、電車のトンネルからホームへの入り口のアーチには「Da Vinci Code」と書かれよく当局が許可したものだと思うほどの前代未聞の宣伝だった。主役のトム・ハンクスや「アメリ・プーラン」で人気を博したオードレー・トトゥ、そしてフランスを代表する国際的俳優の1人ジャン・レノ等の顔が4メートル四方のポスターになって壁を飾り、ますます人々の関心を煽っていた。

私がこの小説の存在を知ったのは、2004年5月紅海からフランスにもどるチャーター便で、廊下をはさんだ向こうの壮年のおじ様が食い入るようにしてこのタイトルの大きな本を読んでいたのを見かけたときだ。タイトルからしてダ・ヴィンチ自身について書かれた本だと思い、フランス人がなぜこのイタリアの芸術家にそんなに興味を抱くのかと不思議に思ったから強い印象に残っていた。それから数ヶ月間忘れていたが、その年の秋に少し暇ができて書店で本をつらつら漁っていたら積み上げられたこの本に出会ったのだ。そのころからフランスでもピークを迎えたらしく、地下鉄に座ると目の前のご婦人方が1人ならず読んでいたり、バス停で待っている人がこの本を読んでいたりするようになったのである。ソフィー・ネヴュ役のオードレー・トトゥも自分がこの役に抜擢される数ヶ月前バカンスのときに、まさか自分が演じることになるとは想像もせず読んだとのこと。

全世界で6千万部が刷られた小説だが、ル・モンドによるとフランスでは4月現在で3. 9百万部が売れ、6巻にわたるハリー・ポッターが6. 7百万部であったことから考えてもかなりのフィーバーである。このほか、ダ・ヴィンチ・コードと名づけられたビデオゲームも登場し、インターネットで Da Vinci Codeと引くと3. 8百万ページあるなど統計上の数字も凄みがある。

ルーヴル美術館でのシーンについては、夕方6時から翌早朝までのロケ一日分のルーヴル使用料は2万4千ユーロ(約340万円)だったそうだ。舞台になったシーンを解説付きで巡るダ・ヴィンチ・コードツアーも催され、主人公ロバート・ラングドンのお膝元アメリカからヨーロッパを巡るツアーは2千3百ユーロ、また、ジャック・シラク大統領の後押しもあって撮影が可能になったと監督が話していたというルーヴル美術館や、ヴァンドーム広場にあるホテル・リッツ、サン・スルピス(Saint Sulpice)教会などパリの舞台を巡るガイドツアーも昨年の7倍に増えたという。もちろん旅行代理店の企画した日本からのツアーもある。この映画がフランス観光振興に一役かったことは明らかである。

封切の日に私も並んで一番乗りして見たが原作を真剣に読んでしまった者としては、大きなシーンが象徴的に出てきたがそれらのシーンを繋ぐ細かな描写(このストーリーでは重要だと思うのだが)に欠け、この映画が脚光を浴びたのは本の七光りという感じがいなめないのが正直な感想だ。裏にあった映画の巧妙なマーケティングや有名俳優の演技の冴えのなさ等を指摘する厳しいメディアの評をあちらこちらで見かけ、封切り前はあんなに騒いでいたのに、公開になったとたんラジオ等でもダ・ヴィンチ・コードの名を耳にすることがなくなった。フランス人のこの映画に対する関心が早くも薄れてきた感がある。2006.5.28 (N.Suzuki)

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