特集/コラム

【エリア特集】2006-06-21

初夏のパリを彩る 
マリー・アントワネット王妃ゆかりの薔薇園

朝は10度前後と例年になく肌寒く長い春に泣いたパリだが、6月中旬から急に夏の様相を呈してきて、ためらっていたバラのつぼみも一気にほころび満開を迎えた。

初夏のパリを彩る  マリー・アントワネット王妃ゆかりの薔薇園

バガテル公園

この季節に楽しみなのが、パリの西にあるバガテル公園のバラである。この公園では、1907年から毎年6月の第2木曜日(今年は寒さのために第3木曜日に変更)にバラの国際コンクールが行われている。今では1300種9000本のバラが植えられ、コンクールのたびに新種が加わる。今年は一等と香りの2つの賞が、新しい色合いの薄紫がかったバラに与えられた。

大きさ、形、色、とにかくいろいろなバラの花に出会うことが出来る。それぞれの木には名前がつけられており、1960年代に作られた情熱的なローズ色の大輪には当時世界に名を轟かせたオペラ歌手マリア・カラスの名がつけられている。モナコのプリンセスの名も登場し、花と香りを鑑賞しながら名前の由来を想像して歩くと時の立つのを忘れる。

園の奥に施されたバラの木のアーチを潜り抜けると小高い丘につながり、そこに設けられた東屋からはバラ園の全景が見渡せる。満開時にはまさにこの世の楽園といった感じだ。ベルサイユ宮殿に象徴される幾何学的な庭の通路を歩きバラに見入っていると、点描画で有名になったスラーの絵のごとくパラソルを片手に長いドレスをまとった婦人が出てくるのではないかと思わせ、しばし100年前にタイムスリップするのだが、顔を上げてみると、さんさんと照る太陽を背に日焼けも気にせずタンクトップ姿で携帯電話のカメラを片手にシャッターを切る人たちに遭遇し現実に立ち戻る。

846ヘクタールという広大なブローニュの森の24ヘクタールがバガテル公園になっているが、この公園がフランス近世史の変遷を経てきたことも意味深い。18世紀初期にオルレアン公フィリップの摂政時代に建築された当時は単なる家であった。その後数人の手を経てある公爵夫人の贅沢な社交場となり、その後、カンヌ映画祭でソフィア・コッポラが製作して話題を呼んだ悲劇の王妃マリー・アントワネットのゆかりの地となるのである。この屋敷がルイ16世の弟アルトワ伯爵の目に留まり、彼と義姉のマリー・アントワネットが出資して1775年にわずか2ヶ月で修復した。アルトワ伯爵が彼女を歓迎するために急がせたとの逸話も残っている。それから9年間は、庭園や新たな屋敷を建設するなど結局2百万リーヴルという法外な費用が費やされた。その後フランス革命の波の中取り壊しを免れナポレオンの手に渡ったが、彼の失脚後1815年に再びアルトワ伯爵の元にもどるなどして1905年パリ市が買い取るに至ったのである。

バラ園の反対側に位置するシャトーには王朝時代の名残がある調度品が置かれており、宮殿の窮屈な生活を逃れてここで休息したであろうマリー・アントワネットの姿が重なる。当時を偲ばせるかのごとく、孔雀がその見事な尾をドレスのすそのように揺らしながらゆったりと散歩しているのが印象的だった。

2006.6.21 (N.Suzuki)

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