特集/コラム

【エリア特集】2006-09-26

パリの街角散策:モンマルトル

 9月に入り黄金色の日差しが美しい季節になってきた。そんな時散歩すると情緒のあるカルチエが18区のモンマルトルだ。丘の上に聳え立つサクレクール寺院が一番に思い浮かぶが、ちょっと角度を変えて地下鉄2番線のブロンシュ(Blanche)の駅で降り、ムーラン・ルージュの赤い風車を左手に見ながら、レピック通り(rue Lepic)から小高い丘の坂を上ってみる。

パリの街角散策:モンマルトル

 狭い道の両側には、パン屋さんや八百屋さんなど昔ながらの小さい店が立ち並んでいる。丘の中腹には、5、6年前に話題を呼び日米でも公開されたフランス映画「アメリ・プーラン」の撮影に使われたカフェがある。(最近話題になったトム・ハンクス主演の映画「ダ・ヴィンチ・コード」で相手役をやったオードレー・トトゥが主演した映画で原題は“Le fabuleux destin d’Amelie Poulin”。)この通りは蛇行していて、坂をもっと上ると2つの素朴な風車が見えてくる。寺院周辺は始終観光客でざわめいているが、この当たりは、裏手のアパルトマンに住んでいるパリジャンがカフェでくつろいだり、夕飯の買い物をしに食材屋さんに出かけてきたりしていて生活感があふれている。

 もう少し先の閑静なコルト通り(rue Cortot)には、丘では一番古い建物のモンマルトル美術館(le musée de Montmartre)がある。入り口から庭を通って見える一軒家は17世紀の建造物で、1680年に古典喜劇作家モリエールの劇団に属する俳優に買い取られ、1875年からは著名なアーティストが出入りした。ルノワールが庭の木の下で遊ぶ少女(La jeune fille à la balançoire )を描き、ゴッホやゴーギャンが訪れ、ユトリロやドゥフィーはここにアトリエを構えた。二階の部屋からは、観光名所からは見たことのない、まるで郊外にいるのかと錯角させられるような静かなパリの風景をみわたすことができる。

 少し手前のプールボ通り(rue Poulbot)には、サルバドール・ダリの作品が300点ほど展示されている建物もある。その横のレストランでは、コントラバスが奏でるクラシックを聞きながら蔦のシェードから木漏れ日がさすテラスで気楽に食事を楽しんでいる人たちがいる。すぐそばのカルヴェール通り(rue du Calvaire)の階段から垣間見るパリも、ガス塔や下に見えるカフェの雰囲気と相俟って風情がある。

 もちろん、丘の頂上に立つサクレクール寺院の付近から見渡す夕方のパリも、薄茶色に染まりかけた木々の葉が夕日にマッチして、セピア色の写真を見るようで素敵だ。由緒ある教会に与えられるバジリカ聖堂(basilique)という称号が授けられたこの寺院では、日曜日にミサを見学することもできる。荘厳な寺院の祭壇のそばで、すそがピンと跳ねた黒白のツートンカラーのベールをまとい賛美歌を歌うシスターの姿は昔の映画のワンシーンを思い出させ、その澄み切った声を聞くと心が洗われる。他の教会ではなかなかない光景だ。青い衣装をまとったイエス・キリストを描いた巨大なドームもろうそくの光に照らされて美しい。

 日ごとに変化する木々の葉を鑑賞しながら、ゆっくりとこの丘で過ごす休日もお勧めだ。

2006.09.20 (N. Suzuki)

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