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【コラム】2004-02-15

大事な子どもには強さを−大自然に放って学ばせよ−

 米国の子どもたちの夏休みは長い。学校によって若干の違いはあるが、慨ね六月末から九月上旬までの二か月半近く。大人たちはせいぜい長くても二週間ぐらいの休みしかとれないため、子どもたちをサマーキャンプに行かせるのは、いわば夏の恒例行事だ。キャンプの内容は、様々で午前中に行って夕方帰ってくるディ・キャンプから二週間、長くなれば、二か月近いものもあるらしい。スポーツキャンプ、アカデミーキャンプ、ダイエットキャンプなどあらゆるニーズに対応出来るものが用意されている。

大事な子どもには強さを−大自然に放って学ばせよ−

 TOKYOフロストバレーYMCAキャンプ。もともと駐在員など現地在住の子どもたちを対象に夏と冬にキャンプを実施している。対象はおもに日本人。私の子どもたちもニューヨークにいた頃は、参加していた。

 三年前だったか、YMCAがニューヨークで二週間過ごすこのキャンプを東京で初めて募集した。キャンプの収容人員に限りがあるため集められたのは約二千人。費用も四十万円近くかかるため、それなりの家庭の子どもたちでないと参加できないものであった。

 こういってはなんだが、現地の駐在員の子どもたちはどちらかというと優等生タイプの子どもたちが多かった。東京からのメンバーは中学生低学年なのに茶髪に化粧といういでたちで今どきの子どもたちだった。私も集合場所までは、車で送っていったので、派手な子どもたちを見た記憶はある。

 長女の話によれば、彼女のグループは日本からきたミホ(13)、ユーリ(13)、ユカ(12)ら四人と現地の子どもたち四人の計八人班。キャンプでは二週間、同じキャビンの二段ベッドで寝食をともにした。日本からきた茶髪の子たちは当初、「こんなところにこなきゃよかった」とうそぶいていたそうだ。

 フロストバレーはマンハッタンからバスでおよそ三時間。敷地は六千五百エーカー(山手線円周より広い)もある大自然のなか。リスは当然のこと、鹿、タヌキ、キツネなどが日常的に出てくる。広大な湖、山も近い。こうした環境のなか、子どもたちは毎日勉強のほか、水泳、カヌー、野宿、アドベンチャーなど大自然に触れながらの盛りだくさんのイベントを楽しむ。 

 大自然は、人間の小ささを教えてくれるようだ。「こなきゃよかった」とうそぶいていた子どもたちも一週間ほどたったころから、徐々に心を開き、寝る前などの時間に自分のことをしゃべりだしたそうだ。

 この子たちの一人は、日本で友だちや学校の先生、挙げ句のはては親からも嫌われていると涙を流しながら話した。客観的にみれば、こんな費用がかかるキャンプに行かせる親が子どもをないがしろにしていた訳はないと思うのだが、その子の心は傷ついていたようだ。人とも打ち解けず暗かったそうだ。茶髪の子たちも心を開放していった。最終日、帰りたくないといって一番大声で泣いたのはこの子たちだったらしい。

 長女にせがまれて日本に帰国する子どもたちのホテルまで行ったのだが、「帰りたくない」といって泣く子どもたちの姿は見ためは、派手でも、中身は普通の中学生であった。 大人たちとともに、何か子どもたちも病んでいるような気がしてならない。精一杯つっぱっている。弱くなったとの指摘もあるだろうが、弱くしているとの見方もある。受験勉強などの檻のなかにいれず大自然のなかで遊ばせれば、本来子どもたちの持つ強さ、朗らかさ、創造性を取り戻せるのではなかろうか。広大な米国の自然は、子どもたちがまとっていた鎧をたった二週間で取り除いてくれた。

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