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【エリア特集】2007-05-29

ヨーロッパ散策:ブラチスラヴァ紀行

「ブラチスラヴァ」という都市の名は、あまり聞きなれない方が多いのではなかろうか。実は私もその一人だったのだが、ウイーンを訪れて半日時間の余裕が出来急遽行くことにしたのがこの東欧スロバキアの首都だった。

ヨーロッパ散策:ブラチスラヴァ紀行

チェコの首都であるプラハやハンガリーの首都ブタペストは、東欧の都市として規模も大きく東欧観光にまず上がる名前だが、ウイーンからでも前者が列車で4時間半、後者は2時間半と半日観光は難しい。それに比べると、ブラチスラヴァは、ウイーンから列車でわずか45分、1時間に一本程度列車が乗り入れており、街もこじんまりとしていて半日でも十分に異国の雰囲気を楽しめてちょうどいい。

 

日曜日の午後、11時からのウイーン・フィルのコンサートを聞いた後、午後1時半の列車に乗って旅立った。列車はオーストリア側とスロバキア側の双方から乗り入れているらしく、飛び乗った列車は東欧の歴史を引き継いでいるのか、1960年台の車両のようで40年前にタイムスリップしたようだった。15分もすると寂れた街にさしかかり、線路や駅のホームにはペンペン草が生えていて、初夏を思わせる燦燦と光輝く太陽の下にもかかわらず裏悲しい雰囲気が漂ってくる。

 

45分後に降り立った駅は、とても首都とは思われない地方都市の煤けて薄暗い、やはり40年前の駅の風景だった。EU圏内なのでウイーンを経つときは疑いもなくユーロと信じきっていたが、降りてビックリ換金所がある。駅の窓口で恐る恐る尋ねるとやはりユーロは受け付けないとのこと。慌てて2階にある換金所へ向かう。一度入ったら2度と出てこられないのではないかと思うような重苦しい雰囲気のドアを開けた。連れが心配そうに階段から様子を伺っている。心配をよそに明朗会計でしっかりと古びた、しかし目新しい通貨を手にして駅を出た。

 

ウイーンのホテルのフロントで、半日観光したいがどこかないかと尋ねて薦められたのがこの都市で、ガイドブックも何もない。「到着したら観光案内所にでも行けばいいや」程度の気楽な気分でやってきたのだが、まず通貨にビックリし、観光案内所も日曜日で閉まっていると聞き暗雲が立ち込め、連れの表情も不安気だ。

 

心の底では私もドッキリしているのだが悟られては行けないと強気で当たりを見回した。するとやはり観光客らしい女学生風の二人組みが地図を堂々と広げて話している。どこで地図を調達したか尋ねると駅の構内のスタンドで買ったという。慌てて飛び込み地図を求めた。あるにはあったが、尋ねても英語が通じず、駅の場所を地図で示してくれるだけだった。半分途方にくれたが最後は度胸、タクシーに乗って観光を頼めばいいさ(人攫いに遭う危険性も思い浮かべながら)と開き直った。

 

すると天の助けか、地図の隅に米国系の有名ホテルの宣伝が載っているのが目に入った。そこに行けばコンシェルジェに英語で観光の情報を聞くことが出来る、そう思いついて、堂々とタクシーに乗り込む。連れはタクシーの運転手の人相が悪そうだと怖がったが、順番制なのでしょうがない。実は恐ろしく見えたのはサングラスのせいで、ちゃんと指定したホテルまで正しい道順で連れて行ってくれた。

 

ホテルでトイレ休憩を済ませてコンシェルジェにどこを観光したらいいか、ハイヤーを雇ったがいいのかいろいろと聞くと、旧市街ならこの場所がすでに旧市街で車では回れないと言われてしまった。結局は徒歩で旧市街に繰り出した。素晴らしい天気の日曜の午後とあって、広場やカフェには人が溢れている。

  

まず最初に出くわしたのが旧市庁舎の立ち並ぶ中央広場だ。広場には1572年に出来たというマクシミリアンの泉があり、周りの建物は現在では日本やフランスの大使館が入っている。ふっと見ると赤くて小さなバスが止まっていてどうやら観光バスらしい。近寄ると何人かと聞かれ、日本人だと答えるとあっちのバスに乗れともっと小さな5人がやっとのバスに案内された。値段も千二,三百円程度と手頃で簡潔に40分程度で旧市内を日本語のテープを流しながら案内してくれた。

 

ブラチスラヴァはその昔ハンガリー王国の首都で、1536年から1783年までこの街の大聖堂で王様や女帝の戴冠式が19回にわたり行われたそうで由緒ある都市だ。その中にはハンガリーを支配していたオーストリアの女帝でマリー・アントワネットの母でもあるマリア・テレジアもここで戴冠式を行ったそうでたびたび滞在しその時期が街の黄金時代だったようである。ヘンデルや幼いモーツァルト、ベートーベン、リストなど蒼々たる音楽家がこの地でコンサートを行ったそうで、街の趣も文化の深さを感じさせる。

 

こじんまりとした街並み、パステルカラーに塗られた石造りの壁の続く通り、小高い丘の上に立つ要塞のある城、レンガ色の建物の屋根、そして雄大に流れウイーンとをつなぐドナウ川、それぞれが歴史を物語ってくれて楽しい街だった。

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