特集/コラム

【エリア特集】2007-10-11

パリの自転車貸し出し制度

久々に清々しい秋晴れの日が続いている。木々は早くも9月後半から色づき始め、通りでは太陽の日差しに照らされた黄金色に輝くポプラの葉がきれいな陰影を作っている。パリコレクションがニュースを飾り、展覧会があちらこちらで始まった。市場には様々なきのこが姿を現して、文化と味覚のシーズンが一気に到来した感がある。

パリの自転車貸し出し制度

最近、市民の生活に浸透しつつあるのが、パリ市により設置がされた自転車の貸し出し制度だ。Vélib(自転車という意味のvéloと 自由という意味のlibertéを掛け合わせたものか?)と名付けられたこのプロジェクトは、7月15日の日曜日を皮切りに12月末までの5ヶ月半で、300メートルごとに設置された約1450の拠点に、20,000台前後を目処に貸し自転車を配備するというものだ。各拠点には約20台の自転車が道路脇に設置された駐輪スペースにそれぞれ電子ロックされており、当局から支給されたカードを翳すとロックが解除されるようになっている。

貸し出し料金は最初の30分は無料。その後は30分ごとに使用料が加算され、使った時間により専用カードやメトロカードなどで脇に設置されている機械を使って決済するという制度だ。このほか一年間有効の定期料金も設定されており、メトロの定期と比べてグンと得なプランだと喜んでいる利用客もいるようだ。

市の目的は、市内の短距離移動を中心とした自動車での市民の移動を減らし、排気ガス減少を実現することだ。もちろん渋滞、駐車場等の問題解消にも繋がる。統計によれば、市内を走る多くの一般車が2キロメートル以内の移動なので、自転車が車に取って代わることは可能だと見ている。確かに、今だにスモッグが出たりするパリでは、車両を減少させることが大きな課題で、積極的に取り組んでいる。

街を歩いているとこの自転車を戻しに来たり借りたりしている人の姿をよく見かけるようになった。グレー色に統一されたこの自転車は決してきれいな色合いではないが、路面に似たような色であり、街の景観の妨げにならないための配慮の結果かもしれない。

自転車でパリの景観を眺めながら秋空の下を走るのは確かに悪くはないし、排気ガスで喉を痛めて日本の某メーカーの空気清浄機を購入して凌いでいる筆者にとっても有り難いプロジェクトだ。しかし、まだまだ市当局が解消しなければならない問題が出てきているようだ。

利用客の立場からすると、人気のある貸し自転車のスポットは決まっていて、乗り捨てたいスポットに空きがなければ、300メートルほど離れたよその駐輪スペースまで行くことを強いられる。その際には15分間は無料時間が延長されることになるが、その分借り手も時間を無駄にしてしまうことになる。さらにいろいろな電子装置を装備しているせいか、自転車は20キロを超え、重たいとの評がある。

車のドライバーの立場からは、街中にふらふらと好き勝手に横断したりして走っている自転車が増えて危険を感じる。自転車の利用者側に交通法規を尊重する人があまりいないからだ。幅の広い道路によっては自転車専用のスペースがあるところもあるが、そういう道は稀だ。今のところ事故のニュースは聞かないが、車のドライバーもそのうちいやになって車に乗るのを止めるという効果を見越しているのであれば、評価できる結果を生むかもしれない。

この他にも、すでに200件を超える自転車の盗難や、電子装置のためなのか故障件数が多く、この自転車を積んだ管理会社の車が毎日管理に追われている。貸し自転車の管理等全般をパリ市と契約を結んでいる管理会社は、もともとバスの停留所や建物の壁に広告宣伝を掲示している会社で、年間3,5百万ユーロとも言われている契約料を市に払って貸し自転車の管理をしている。その見返りにバス停や道路などの広告掲載場所の独占権を得ているとのことだ。この貸し自転車による収益自体は、盗難、メンテナンスなどからすると赤字が予測されているが、広告独占権は大きいのだろう。

ちなみに、万を超えると予想される自転車走者を利用して自社の宣伝広告を考えついた企業もあるようだ。安全のための蛍光塗料が塗られたベストに会社の宣伝を印刷して、利用者に着用してもらい、街中を宣伝してもらおうというものや、日本の著名なブランドも香水の宣伝に自転車に赤い花を飾るということを考えているようだ。市当局はこういった広告活動を規制する方向に動いており、予想しない出来事への対処に遭遇している。

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