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【人物登場】2009-11-27

”笑顔”テーマに「空気」をデザイン 長谷川 喜美さん(空間デザイナー)

 デザイナーとしてのテーマは「空気をデザインする」。“想い”をデザインする、と言い換えてもよい。

”笑顔”テーマに「空気」をデザイン 長谷川 喜美さん(空間デザイナー)

 デザイナーには、「形をデザインする」というイメージが強いのだが、対象が“空間”になったとき、「メッセージをどう伝えるか」がポイント。それが「想いをデザインする」という表現につながる。
 今も半分は、店舗や商業施設のデザインを手がけるが、空間という点では、「屋内も屋外も同じこと」という。そして、「“光”は単に、手段にしか過ぎない」と。しかも今回は、ベルも登場させ、「光と音がシンフォニーを奏でるイルミネーション空間」を前面に押し出す。
 そうした背景もあって、照明デザイナーではなく、「何事にもしばられず、空間デザイナー」を名乗る。新進の女性空間デザイナーが、11年ぶりに復活する表参道のイルミネーション事業を担い、新展開をめざす。

 「明治神宮の永遠の杜」から続く、約1キロにわたる表参道の欅並木に、「新しいイルミネーション」が蘇る。
 コンセプトは“笑顔”。主催者にあたる原宿表参道欅会の松井誠一理事長も言うように、「景気低迷によって明るい話題のない中、表参道から元氣を発信したい」「街を訪れる人を笑顔にしていきたい」という、強い思いが込められている。
 欅の大木は約140本。うち115本をイルミネーションに使う。「光の色は暖かいほうがいい」と、温かみのある電球色のイルミネーション約63万球が、今年は12月1日から2010年1月10日まで点灯。「長く愛される“冬の風物詩”」として、定着をめざす。
 光の装飾は、消費電力が従来の7分の1というLED(発光ダイオード)を使用。樹木への負荷を軽くするためにも縛り付けたりせず、「枝に添わせて“枝ぶりの良さ”も表現」していく。
光は「新芽のイメージ」。欅に“光の芽”が灯って、「未来への架け橋となる芽吹きの季節」を予感させる。
 
 要所には、高さ4メートルの「新芽のオブジェ」24台を設置。また、欅の根元には、「平和・愛・幸せ」をモチーフとするベル(鐘)が、10本ずつ“植えつけ”される。ベルは3種類。風に揺れて、優しいシンフォニーを奏でる。「歩行者には、老いも若きも、自分の目線で楽しんでもらいたい」。そこに、女性らしい配慮がうかがえる。
 同様のベルは12月25日まで、来街者がメッセージカード(欅カード)とセットで購入できる。メッセージはオブジェに飾りつけ、イルミネーション終了後、明治神宮に奉納される。ベルは記念に持ち帰る。

 復活イルミネーションは、来街者参加型であると同時に、「環境保全型」でもある。老化や衰退によって電飾を施せない、十数本の欅には、その理由とともに、CO2吸収量などを示すプレートを設置する。そのプレート10カ所を巡る「イルミネーション・ワードラリー」には、参加賞も出る。10カ所のキーワードは、全部回ると「こ・こ・ろ・が・ま・も・る・け・や・き」となり、スワロフスキー製の輝くピンバッジが1000円で買える。このピンバッジもデザインしただけに、「新芽は上へ向かって育つ。尖っている方を必ず上に」と、着用の仕方にも“こだわり”をみせる。
 これらの売り上げの一部は、自然環境団体に寄付するとともに、欅の保護・育成などにも活用する。

 森ビルでは、アークヒルズの空間デザイン全般を4年ほど担当、表参道ヒルズは2006年2月のオープン時から手がけてきた。今回のイルミネーションのコンペには、森ビルの推薦で応募し、3人(社)の候補から選ばれた。
 そうした縁もあって、“White Forest”をコンセプトとする表参道ヒルズのマザーツリーの中には、ベルを飾って表参道の欅イルミネーションと連動させ、相乗効果を図ることを常に意識した空間デザインにしている。

 “アラフォー”世代とお見受けするが、「年齢は公表していません」。 休暇には「海外へファミリー旅行」という“フツーのサラリーマン家庭”に、杉並区で生まれ、神奈川県藤沢市で育った。空間デザイナーに目覚めたのは、その海外旅行。ステンドグラス越しに「突然落ちてきた光」が教会の空気を一変させ、「場が変容する」という驚きが、建築家志望から空間デザイナーへと転進させた。
 湘南学園から桑沢デザイン研究所のインテリア学科に学び、施工会社、デザイン事務所などを経て2004年6月、ベルベッタ・デザインを設立して独立。
 いま、杉並の生家に家を建て、夫と二人暮し。趣味は、国内外の美術館巡りと谷崎潤一郎などの純文学。三島由紀夫「夜会服」の初版本は、「お宝」だ。

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